2010年03月11日

【話題の本】『葬式は、要らない』島田裕巳著(産経新聞)

 ■限度を超えた贅沢

 日本の葬式がいま、大きく変わりつつある。すでに都市部ではこの2〜3年で、直葬や家族葬といわれる近親者以外の会葬者を呼ばない簡素なスタイルの葬儀が急速に普及しているという。

 現在進行中の葬儀様式の激変について、宗教学者の著者がその歴史的背景を平易に解説、葬式無用論への流れは必然と“お墨付き”を与えたのが本書だ。

 時宜を得たテーマだけに、反響は大きかった。版元の幻冬舎によると、1月末の発売から1カ月あまりで8刷22万部を発行。主な購買年代は30〜50歳代といい、親の葬式をリアルに意識し始める世代の問題意識に強く訴えたようだ。

 従来の日本の葬式は、とかく金がかかるものとされていた。たとえば平成19年に行われた日本消費者協会のアンケートによると、葬儀代の全国平均は231万円。国際水準からみても、飛び抜けて高い金額だと著者は言う。

 幻冬舎の編集担当、志儀保博さん(45)は「多くの人の実感とタイトルがマッチした。よく葬式代200万円を残して死ぬというが、この不況の世に、そんな高額な葬儀が本当に必要なのか。むしろ要らないものという前提で、ゼロから考え始める契機として読まれれば」と話す。

 なぜ葬式はこれほど高額になったのだろうか。著者が説くのは「葬式は贅沢(ぜいたく)」、つまり従来の葬式は必要の限度を超えた消費だったというシンプルなメッセージだ。

 本書では、日本仏教の葬儀が華美なものになっていった経緯、日本独特の戒名料や檀家(だんか)制度などが手際よく整理され、豪華な葬式を求めた社会的背景と、その衰退が描き出される。葬式を通じてみた日本社会史としても興味深い。(幻冬舎新書・777円)

 磨井慎吾

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2010年03月10日

<長谷川等伯展>入場者10万人を突破…東京国立博物館(毎日新聞)

 豊臣秀吉や千利休に高く評価された絵師・長谷川等伯(1539〜1610)の作品を集めた「没後400年 特別展『長谷川等伯』」(主催・東京国立博物館、毎日新聞社、NHKほか)の来場者が10日、10万人を突破した。東京・上野の東京国立博物館で同日午前、10万人目の来場者に記念品が贈られた。

 10万人目となったのは、友人と2人で訪れたさいたま市のパート、川原久仁子さん(46)。銭谷真美館長から記念品として図録などを受け取り「有名な水墨画の本物をどうしても見たくて来ました。宝くじにも当たったことがないのでうれしいです」と笑顔を見せた。

 同展は日本水墨画の最高峰とされる「松林図屏風(しょうりんずびょうぶ)」など国宝3件、重要文化財27件を含む73件を展示。22日まで開催される(15日は休館)。観覧料は一般1500円、大学生1200円、高校生900円、中学生以下無料。【青木純】

【関連ニュース】
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2010年03月09日

【寒蛙(かんがえる)と六鼠(むちゅう)】論説委員・長辻象平(産経新聞)

 ■危うし、クロマグロ

 クロマグロが、シーラカンスになりかねない。

 野生生物の保護を目指すワシントン条約締約国会議に、大西洋クロマグロが諮られる。

 このマグロの生息数が減っているとして、絶滅危惧(きぐ)種(付属書I)に指定するよう、モナコが提案したためだ。

 13日から中東・カタールで始まる同会議で採択されると、大西洋クロマグロは、シーラカンスと同レベルの保護対象魚となってしまう。そうなれば商業目的の国際取引は禁止され、日本への輸出も止まる。開幕を目前にしてモナコ案の勢いが増している様子だ。

 モナコは、取りすぎによって、大西洋クロマグロが激減していると主張している。だが、日本が取りまくったわけではない。日本はむしろ、国際管理委員会で乱獲傾向に警鐘を鳴らし、漁獲量の削減を提案してきた。それに抵抗していたのは欧州の国々などだ。

 それが一転して、漁業国のフランスやイタリアがモナコの支持に回った。欧州連合(EU)も軌を一にした方向だ。米国も3日に国際取引禁止への支持を表明するに至った。条約の締約国は175。出席国の3分の2以上が賛成すれば、大西洋クロマグロは日本から遠ざかる。

 和食人気で欧米人もマグロの消費を伸ばしている。それでも日本のマグロ消費は、突出している。

 とくにクロマグロのトロの人気が高い。日本でトロが食べ始められたのは、第二次大戦後のことだ。食の欧米化につれて、脂っこい食べ物が好まれるようになったことが影響している。

 江戸時代にはマグロに人気がなかった。大店(おおだな)の使用人たちが食べさせられる、まずくて安い下魚の代表だった。だから川柳の笑いの対象になっている。

 「惣(そう)ざいにまぐろを伊勢屋なたで切り」「切り売りのまぐろで伊勢や境論」(切り幅で交渉)。江戸に進出した伊勢商人は、徹底した倹約ぶりで知られていた。マグロは畑の肥料にも使われた。

 そのマグロが、食べ尽くされる可能性が論議されようとしているのだ。クロマグロには太平洋クロマグロもいるが、ワシントン条約締約国会議で指定されそうなのは大西洋種の方だ。

 大西洋産と太平洋産は、生物学上、別種とされているが、今後、分類が変わって同一種にされたりするとやっかいだ。

 絶滅危惧種になっても地中海諸国などは、大西洋クロマグロを領海内で取り続けられる。そのうえEU内で流通させても、ワシントン条約で禁じられている国際取引には該当しない。

 日本の調査捕鯨を妨害したシー・シェパード(SS)も大西洋クロマグロ漁に関心を示している。マグロの体温は、独自の血管系の働きで海水温より10度も高い。高速遊泳の原動力なのだが、SSなどはマグロが哺乳(ほにゅう)類に似た特別な魚だと言いかねない。

 今年10月、動植物を尊重する生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋で開かれることも日本の水産界にとって、タイミングの悪い巡り合わせだ。

 それにしても現代の日本人は、何ゆえかくも大量のマグロを食べるのか。調理の必要がないからとすれば、あまりにも情けない。日本の魚食文化の衰退とも無縁ではないだろう。

 カタールでの表決に世界の関心が集まる。資源派と環境派の綱引きが熱を帯びつつ日本を囲む網が巻かれる。(論説委員)

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